連載第1回 reunion 〜再会〜
自己紹介
僕は現在25歳で、生活支援(生活を立て直すために、相談支援事業所やメンタルクリニックを利用することの総称)に通っています。2026年3月、ぼくは「非定型自閉症」(こだわりがあまりみられないのと退行があるため)と診断されました。
自閉症は先天的な機能障害で、その特性は十人十色です。僕の場合、診断は「重度」です(2026年8月に精神1級の手帳を取得しています)。IQは98と平均的で知性はありますが、「言語失行」と「失読」があります。
「重度」と聞くと知的障害を想像されるかもしれませんが、僕の場合は、頭の中にある考えや感情を外に出すための「体のコード」が切れているような状態なのです。
心と身体が繋がっておらず、言葉が閉じ込められている——
そんな感覚のなか、パニックで身体が固まったり、制御できず走りだしたりすることもあり、外出には危険が伴います。
幼稚園から小中学校にかけて、僕は周囲を必死に観察し、目立たないよう「普通の学生」を演じて適応していました。今ならこれを「社会的カモフラージュ」と呼べます。自閉症の特性を隠し、周囲に馴染むために定型発達(障害のないマジョリティの人)を模倣して自分を偽ることです。大人からは「(発達の)遅れはない」と思われていましたが、無理に演じていたために帰宅後はひどく疲れ、体調を崩しやすい子供でした。
学習面では、目で見るより耳で聞くほうが理解しやすい「聴覚優位」のため、図形や読解に苦戦しました。
細かい動作や集団行動が伴う体育や家庭科、匂いの強い調理実習も苦手でしたが、仕組みが明確な理科や、文法にルールがある英語は(比較的)得意でした。
僕は本当は「色々わかているよ!」と言いたかった。実際、日々色々なことを考えていました。「この先生は体力があるなあ」とか、「A君はずっと身体を揺すっているけど疲れないのかな」とか、先生や友達をよく観察していました。いつもチラッと横目で見ていたので、その行動に気づかれることはありませんでしたが、僕の心にはたくさんの言葉がありました。ただ、それを声や表情、身振りで表すことがどうしてもできなかったのです。
表現は苦手でも、僕の内側には、確かに豊かな思考と世界が広がっていました。
言葉の出口
僕はお話が大好きでした。先生が読み聞かせをしている時は、いつも「盗み聞き」をして楽しんでいました。
本当はみんなと同じように、声に出して笑ったり、友達と会話をして心を通わせたかった。でも、僕はなぜか話せませんでした。言葉が出ないもどかしさから、怒った時に僕ができるのは、下敷きを折ることだけでした。これまでに何枚の下敷きを折ってきたことか。
「たくみくんは一人でいるのが好きなんだよ」という声が聞こえるたびに、「違うよ、僕もみんなと遊びたいよ!」と心の中で叫びました。当時の僕はとてもさみしく、世界は暗く辛いものだと感じていました。周りのみんなは優しくて、よく話しかけてくれました。でも、僕はそれに応えることができない——
クラスの中に、僕に言葉をかけてくれる人はいました。けれど、僕のほうから言葉を返し、何でも話し合えるような「友達」は一人もいませんでした。
教室の隅で一人立ち尽くし、あるいは廊下をひたすら歩き続ける日々。そんな僕ができることといえば、窓辺でキラキラした日差しやカーテンの揺らめきを見つめることだけでした。けれど、僕はその美しい光に希望を抱いていました。「いつかきっと」という燃えるような情熱を、密かに心の中で育てていたのです。
そんな僕も25歳になり、「重度」の高機能自閉症と診断(後に「退行型自閉症」と診断)されました。身体が大きくなった分、前後に揺れる行動はより奇妙に見えますし、奇声(無意識に出る「あー」「うー」などの声量の大きなひとりごと)も声が大きくなった分、より目立ちます。しかし、そんな僕が今、こうして文章をつづっていることに自分でも驚いています。
今はタブレットで想いを表現できますが、ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。そこには膨大な訓練と、粘り強い努力の積み重ねがありました。閉じ込められていた僕の言葉が、どうやって外の世界へと繋がったのか。その歩みを、これからの連載で振り返っていきます。
ぼくが伝えたいこと
僕がこのように表現することで、少しでも「話せない=内面に言葉や思いはない」という判断は間違いなのだと理解してもらえたら—— そんな思いを込めて、僕は今この文章を打っています。僕は本来、人に何かを伝えることが苦手です。普段は狭い世界で守られて生きていますので、このように世の中に対して言葉を発することは、とても勇気がいります。でも、僕には、伝えたいこと、伝えなければならないことがたくさんあります。
だから、ここでは正直に、ありのままの僕を見せると決意しました。声にはならなくても、僕の指先が紡ぐ言葉を通じて、僕の本当の姿を感じていただければ幸いです。

